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第15章 バス復権めざして

目次

都市機能をマヒさせるマイカー

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文明開化を運び込んで大衆に歓迎されたバスが、大衆が手にしたマイカーの氾濫によって、100年足らずのうちに行く手を阻まれてよいのだろうか。マイカー社会の進路は、無秩序と環境破壊の袋小路につながっていないか。一人の便利の追及が多くに不便と混乱をもたらし、ついには都市機能をも麻痺させるのではないか-21世紀に近づいて、遅ればせながら日本の交通問題への問い直しが始まった。

平成9年度の国内旅客総輸送人員は846億3千万人で(対前年比0.3%増)伸び率は低いものの増加傾向が続いている。輸送機関別の内訳を見ると、J Rが88億6千万人(同1.5%減)民鉄133億9千万人(1.5%減)営業バスは56億5千万人(同3.4%減)ハイタクは26億1千万人(同2.6%減)自家用乗用自動車358億7千万人(同2.3%増)航空8,600万人(同 4.2%増)と、自家用乗用自動車と航空の伸びが大きい反面、営業バスの落ち込みがめだつ。

また、平成9年度の主な輸送機関別の輸送人員分担率は、民鉄15.8%(対前年比0.3ポイント減)J RlO.5%(同0.2ポイント減)営業バス6.7%(同0.2 ポイント減)自家用乗用自動車42.4%(同0.8%増)となっている。輸送人キロで見ると、JR2,476億 5千万人キロ(対前年比1.6%減)民鉄1,472億8千万人キロ(同2.1%減)、そして営業バスは711億人キロ(同1.8%減)、これに対し自家用乗用自動車は6,186億1千万人(同2.0%増)と伸びている。

自家用乗用自動車、いわゆるマイカーは全国で昭和53年度末の1,732万台から平成9年度末の4,103万台と、約20年間で2.4倍に伸びた。北海道でも同96 万台から同209万台へと2.2倍に増加した。これに伴いバスはマイカーにその領域を侵されて、乗合バスの全国の輸送人員は昭和42年前後の100億人台から年々減少傾向をたどり、平成9年度は54億人(対前年比3.6%減)、貸切バスは輸送人員で2億5,000万人(同0.2%減)となっている。北海道内で見ると、昭和60年度の乗合バス輸送人員は4億3,359万人だったが、平成9年は3億の大台を割って2億9,017 万人となり、60年を100とすれば66.5に減り、ピークであった昭和44年の5億9,627万人の48%となった。

しかし、バスのシェアが低下しても、バスの国民生活で果たす役割、とくに広大な北海道での任務の重要さは依然として大きい。バス事業者が生き延びるためだけではなく、国民の足を確保するため、バスの復権をめざしてさまざまな活動と試みが始められている。

昭和63年5月、日本バス協会は、「いつでも、どこでも、みんなのバス」を合言葉に9月20日を「バスの日」に制定した。 道バス協会はこれに呼応し、毎年各地で様々な取組みを行っているが、平成5年には色々なバスを連ねたパレードなど大々的なイベントを行い、バスの快適・安全をアピールした。

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優先、専用レーンが効果を挙げる

image迷宮に迷い込んだ無数のネズミのサーキットを思わせる都市の交通渋滞で乗合バスの定時性は崩れ、信頼性が低下し、利用者のバス離れとマイカー依存を招いて、渋滞はさらに悪化する。この悪循環の輪をどこかで断ち切らねば本来の都市の機能は回復しないし、中心市街地の商店街の空洞化や大気汚染、交通事故増など、派生する問題も深刻になってゆく。こうした意識から北海道バス協会がまず取り組んだのはバスの優先通行であった。

昭和45年、札幌、函館、室蘭、旭川、帯広、釧路、北見の8市について交通事情を調査して、関係官庁に陳情した。北海道警察などの理解もあって、昭和46 年に札幌市内の一部、西3丁目(時計台前通)などで初めて2.5kmの優先レーンが実施されたのを皮切りに、毎年のように追加、延長を加え、これによる定時性回復の効果も明らかになった。その後何度かの拡大(延長)があり、現在の札幌市内の総延長は優先レーン12区間31.43km、専用レーン18区間 55.69km(含専用道路。以下同じ)旭川市の優先レーン1.3km、専用レーン1.3km、函館市の優先レーン5.2km、専用レーン2.2km指定も含め、道内の専用(優先)レーンの総延長は36区間97.12kmに及んでいる。

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またバスの優先通行のため、札幌市をはじめ各都市の交差点への感知機の設置は年々増えて62機となり、円滑化に役立っている。さらに10市で交通管制エリアが拡大されるなど、官民を挙げて路線バスの定時性確保への努力が続けられている。

とくに平成8年4月に全国初の公共車両優先システム(PTPS)が札幌市内の国道36号線の既設バス専用レーン区間5.7kmに導入され、さらに翌9年 4月、4.6kmが延長され、システムが拡大された。導入前と比べて所要時間が約4分短縮し、バスの定時運行確保に大きな効果をあげている。

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活性化補助制度で多様な取り組み

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都市交通の深まる混乱から、公共交通機関としてのバスの見直しが進んでいる。平成3年度から、バス利用を促進し、地域に不可欠な路線の維持・整備を図るとともに、道路混雑の緩和、地域環境の改善のため「バス活性化システム整備費等補助制度」が創設され、国と地方自治体が協調して助成することになった。

また、身体障害者や老人が利用しやすい優先座席や行き先案内などは早くから実施されてきたが「人と環境にやさしいバス等の普及促進補助制度」によって、平成9年の旭川電気軌道をトップに、ノンステップバスが道内各地で運行されるようになり、好評を得ている。平成8年度からは経営効率化、サービスの改善を対象に「近代化補助」、9年度から道路交通状況の改善を図る「オムニバスタウン整備補助」なども加わり、多様な取り組みを支援する「バス活性化総合対策補助制度」が始動し、10年度に「バス利用促進等総合対策事業補助制度」へと発展している。 道バス協会と各社はこれらの制度を活用し、親しまれ便利なバスをめざして、停留所の改善、ノンステップバスの導入、札幌での各社共通カードの拡大、接近情報を知らせるバスロケーションシステムの導入やバス総合案内システムの設置、貸切バス駐待機場の設置などに取り組んだ。

特に、バス総合案内システムは、利用者への広範な情報提供を目的として、平成8年10月に、大都市の結節点としてJR札幌駅東改札口南側に設置された。コンピューターによってバスの行き先情報が無料でたちどころに分かり、いまも1日の利用は平均280回を超え、乗り場や発車時刻が一目で分かる施設として定着し好評を得ている。

また、これまで札幌市大通周辺に観光貸切バスが駐待機し、交通渋滞になるとして批判を受けていたが、10年10月、札幌市交通局北光営業所跡地を借り受け、日本バス協会交付金と北海道の補助金等で貸切バス駐待機場を設置した。観光貸切バスをアイドリングストップして省エネ・地球環境に配慮するとともに、運転手とガイドがそれぞれの専用休憩室でゆっくりとくつろげる施設として注目され、利用の拡大が期待されている。

道北バスは、平成12年4月から最新技術による非接触型(IC)カードシステムを、全国で初めて路線バスに導入する。これはテレホンカード大のカードをバスの読み取り機に近づけるだけで料金が精算される便利なシステムになる。導入費用の半分は、国・道・旭川市からの補助が予定されている。このシステムが夏は猛暑、冬は厳寒という旭川の厳しい寒暖差に耐えられれば、全国的に利用できるだろうと見られ、この先進的な試みは各方面から注目されている。

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バス復権運動の胎動

平成11年、北海道バス協会の道川忠会長は年頭の新年社長会で、全国的なバス復権運動を提唱し、規制緩和時代に向けた重点事業として、今後積極的に取り組んでいくことを表明した。このなかで強調したことは、かって乗合バスが地域社会の移動手段の主流を占め、国民に身近で親しまれる公共交通として高い評価を得ていたが、近年のモータリゼーションの進展が、交通渋滞による都市機能の低下や、排気ガスなどによる環境の悪化、さらには交通事故の増加などさまざまな社会問題をもたらしたこと、また一方では、2015年には国民の4分の1が65歳以上という高齢化社会となり、お年寄りや身体の不自由な人など移動制約を受ける人々が全人口の25%から40%にも及ぶと見られていることを指摘し、目前に迫った21世紀社会における公共交通ネットワーク形成のあるべき姿を考えると、乗合バスは日常生活に密着した交通サービスの主役として再評価されるべきだとした。

その上で、乗合バスの広範囲移動の自由性と大量輸送の機能を十分に活用し、地球環境にやさしい乗り物、また、住民生活の維持発展を支える乗り物として、地域社会に定着した市民権をもつべきだと強く呼びかけた。

そして、北海道バス協会はその実践の第1号として、会員の意識高揚と利用者サービスの向上を図り、バスのイメージアップにつなげたいとの発想から、バスのマスコットをアレンジした協会の「会員之証」を制定した。平成11年元旦、このマークを貼付したバスが全道各地を一斉に走り始めた。このような北海道バス協会の動向に、日本バス協会も強い関心を示し、バス復権の全国的な展開がこれから始まろうとしている。

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都市交通の未来図をともに

北海道バス協会はかねてから都市総合交通規制の推進を要望してきたが、札幌市は交通問題懇談会を設けて都市総合交通体系のあり方を検討し、ここでも「バス優先対策の拡大」の提言がなされた。月2 回のノーマイカーデーの実施など、一定の効果は挙がっているが、より効果的に推進するために札幌市では近年、乗り継ぎ施設として郊外にパークアンドライドのための駐車場整備を急いでいる。しかし、都市中心部に地下駐車場の整備も進んでおり、提言のねらいに反する動きが依然として絶えない。また、鉄道との結節点である駅前バスターミナルや大型公共施設のバスタッチへの配慮にしても、マイカー、タクシーに比べバスへの優先度は低い。

いま都市を運営する自治体に求められることは、大胆かつ抜本的な自動車総量規制と、都市交通における乗合バスの役割を見直し、積極的にその利用促進を図ることではないだろうか-と、欧米諸国で試行から実施段階に入った新都市交通システムを見て来た関係者は口を揃えて語る。一方、地方交通は、地域社会を支える社会福祉施策を基本に見据えたシビルミニマムとしての交通政策と、公共事業の視点を持つことが喫緊の課題とも言う。 北海道に住む人々の暮らしを高め、心を結び、さらに内外の多くの人に美しい北海道を知ってもらうために、人と環境にやさしいバスの復権をめざしながら、改革への歩みを実行に移す時期がきている。

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