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第16章 危機管理と信頼回復へ

目次

有珠山噴火でバス活躍

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平成12年3月下旬から千数百回に及ぶ火山性地震が活発化し、噴火の危険性が高まっていた支笏・洞爺国立公園の中心地に位置する有珠山(732m)が、3月31日午後1時10分、23年振りに大規模な噴火をした。第1回の噴火地点は、洞爺湖温泉の中心から僅か1.5kmの有珠山西側山麓で起き、噴火はその後、洞爺湖温泉に近い裏手、金毘羅山(297m)山麓に第2の火口が出現する等数十個の火口群を残した。

有珠山を抱える伊達市、虻田町、壮瞥町では、過去の教訓を生かし、噴火前にいち早く避難指示を発令したため、幸いにも人的被害がなかった。

一時、1市2町で16,000人の住民が近隣市町村に避難をしたが、4月13日の火山噴火予知連絡会の新見解により大噴火の危険性が当面低くなるとの発表をうけて、避難指示地区が一部解除され、2週間ぶりに約4,600人が帰宅した。以後、火山噴火予知連絡会と関係市町村との緊密な連携により避難生活をしていた8,000人の人々が順次帰宅をしていった。有珠山周辺を営業エリアとする道南バス株式会社(社長道川忠<当時:北海道バス協会長>)は、第一火口付近にある同社洞爺営業所・ターミナルの閉鎖、道路閉鎖に伴う路線バスの休止、40数名にも及ぶ従業員の避難生活を余儀なくされている中で、これらの事態に対処するため室蘭地区バス協会と連動して同本社に対策本部を設置するとともに、1市4町の現地対策本部にも社員4名を常駐させ、この対策本部からの要請にリアルタイムに対応した。

一方、3月29日から住民の緊急輸送(初期段階で室蘭地区バス協会に26台の要請と現地対策本部から道バス協会にも7台の要請)を皮切りに、関係機関から有珠山噴火対策としての輸送要請の常態化に即応するため、道南バス株式会社をキーステーションとして室蘭地区バス協会で対応し、不測の事態が発生した場合には、道バス協会が即応し全道の会員会社が緊急要請に対応できる輸送体制を敷いた。また、北海道運輸局、北海道、北海道警察本部等との連携を密にしながら災害情報、道路情報などリアルタイムの情報を全協会員へ提供しその後の噴火に備えていった 。噴火災害の影響は、北海道観光を直撃した。雪が解け新緑が芽吹き爽やかな5月の風が香る頃から北海道の観光はシーズンの繁忙期を迎える。この時期に噴火が起きた。噴火の状況が広く全国に報道されるにつれ、北海道観光への風評被害が広がっていった。道バス協会は、4月分の対前年実績とを比較するため急遽、協会員の4分の1に当たる26社を対象に聞き取り影響調査を実施した。この結果、7社が20%から30%の減収、4社が30%から40%の減収、約6割に当たる15社が40%から60%の減収となり、今後の影響を考えると深刻な状況となっていた。風評被害の影響は、ホテル・旅館、バス、ハイヤー、土産品など観光産業全般にわたり、北海道経済に及ぼす影響は甚大であり、災害復興と並び北海道への観光促進は喫緊の課題となった。

4月10日に道庁主催の「有珠山噴火に係る観光関連対策会議」、4月18日に運輸省(現:国土交通省)観光部、日本観光協会、日本観光振興会、日本旅行業協会、全国旅行業協会、旅行事業者、日本ホテル協会、国際観光旅館連盟、全日本シテイホテル連盟、航空事業者等で構成する同会議の東京開催、5月1日に二階俊博運輸大臣視察、5月8日に藤野公孝運輸省観光部長をはじめ松橋功日本旅行業協会会長など全国エージェント代表による視察と全国的な展開が活発となった。日本バス協会も道バス協会と連名で、有珠山噴火は近隣の登別温泉・北湯沢温泉・ルスツ・ニセコをはじめ道内観光地への影響はないとのPRポスターを送付し全国のバス協会へ協力を求めた。

有珠山噴火予知連と行政、行政と地域住民がこれほど一体となって危機管理を進めた例は少なく、世界的にも模範とされたものであった。そして有珠山噴火でのバスの活躍と風評被害に対する関係者の絶大な協力への感謝は、今もなお北海道の中で語り継がれている。 また、北海道運輸局長と北海道知事からは、道バス協会長に対し住民の安全、避難生活の安定確保に貢献したとして感謝状が贈られた。

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バスの交通事故防止で危機感

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さっぽろ雪まつりに象徴されるように、冬の観光北海道もようやく定着してきたが、冬道を雪煙を巻いて走る観光バスは、依然として雪との闘いであった。平成12年2月26日午前9時ころ、思わぬところで重大事故が発生した。摩周湖へ続く弟子屈原野の道道において局地的な地吹雪で前方視界がさえぎられ、2箇所で停車中の2台の除雪車が見えず、そこへ冬の摩周湖を楽しみにきた関西などからのツアー客を乗せた観光バス2台が、それぞれの除雪車に相次いで追突し、さらに後続の観光バス1台が事故停止したバスに追突し巻き込まれた。この事故によって、バス運転者1名が死亡し乗客など105人が重軽傷を負うという事態となった。

道川忠会長は中島尚俊保安・環境対策委員会委員長と協議の上、3月2日に道バス協会加盟会社全社の責任者を集めて「事故防止緊急対策会議」をKKR札幌で開催した。2月29日には北海道運輸局長、北海道知事、北海道警察本部長の三者連名による警告文が発せられており、テレビ放映など報道各社の関心も高く、会議は終始緊張に満ちていた。この会議で事故防止緊急対策11項目が決定され、事業所内及び運転者に周知徹底を図って行くことになった。この内容は平成12年3月の貸切バス事故防止対策とも一体となるものであったので、掲載しておこう。なお、この事故は、局地的な地吹雪の常襲地帯であったことから、道路管理者も注意を払っていた箇所ではあったが、道路管理上の万全を期する立場から、安全通行を確保するための具体的方策の実現を強く求める声があり、今後に課題を残すこととなった。

交通事故防止は、古くて新しい課題であった。全国交通安全運動は、広く国民に交通安全思想の普及・浸透を図り、交通ルールの遵守と正しい交通マナーの実践を習慣付けるとともに、国民自身による道路交通環境の改善に向けた取り組みを推進することにより、交通事故防止の徹底を図ることを目的として展開された。北海道における交通安全運動もこれに連動して推進をしていた。

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昭和62年に北海道の交通事故死が471人となって以来、15年振りに500人を切ったのは平成14年で、多年に亘る関係者の努力が報いられた。

バスの事故は、第二当事者事故が多かったが言い訳はできない。バスは物流と異なり多くの尊い人命を預かる輸送機関として、如何に安心と安全を運ぶかが最大の使命であるからである。古くて新しいこの課題への挑戦は今なお続いている。

[事故防止緊急対策11項目]

  1. 事業所内に事故防止対策委員会(仮称)を組織し、あるいは現存する組織で具体的な事故防止対策を決定し、対策項目について事業所内及び運転者に周知徹底を図る。組織的には統轄的責任者を配置する。道バス協会は事故防止対策委員会の組織状況及び具体的事故防止対策について報告を求める。
  2. 事故事例を参考に再発防止について研修し、事業所内で事故防止について会社ぐるみの意識の高揚を図る。
  3. 運行管理責任者は、事前に主な経路における道路及び交通の状況、特に冬期は気象条件、当該運行区間における除雪作業の有無、道路工事、路面の状況等について道路交通情報センター、道路管理者、気象台等関係機関から情報を入手し、運転前点呼において運転者に適切に指示を行う。
  4. 運行管理責任者は、運行記録計の管理を徹底し、運転者の指導・教育の徹底を強化する。また、運転者の適性を把握し事故防止に資するために事故対策センターが実施している適性診断の受診の促進を図る。
  5. 改正運輸規則では2月1日から事業者及び運行管理者は運行指示書による指示等を行い、運転者に指示書を携行させることとなったので、特に運輸規則第20条の異常気象時における措置等について運行中に重大な事故が発生する恐れがあると認められるときは、直ちに、運行を中止するなど適切な措置を講ずるよう運行管理者、運転者に対して徹底を図るとともに、運行管理規程の見直し点検をする。
  6. 運行管理者は、運行指示書を携行させるにあたり、運行計画が輸送の安全確保に支障が生じないよう事前に点検する。
  7. 運行管理者は、運行前に乗務員に対しシートベルトの機能確認を行うことを指示するとともに、率先着用とガイドの着席案内について指示し、更に、乗客に対し高速道路・山岳路等のみならず、一般道においてもシートベルトの着用について、運行開始前はもとより、運行途中においても繰り返し協力を求めるよう指示する。
  8. 安全運行を確保するため、冬道運転訓練実施計画の充実を図るとともに、運転者の健康診断の実施状況を把握する。
  9. 運行中における運転者及び関係機関からの各種情報収集を積極的に行い、情報の処理体制を確立し、運行中の運転者に的確に指示する。
  10. 道バス協会として、平成12年度から運行管理者の資質及び安全意識の向上を図るとともに、運転者の適性を把握し事故防止を図るため、会員に対し事故対策センターが実施している運行管理者講習及び適性診断を促進する効果的な措置を講じる。

  11. 現在実施している運行管理者及び運転者の指導的立場にある中間管理者に対する指導者研修の開催地を全道的なものに拡大充実する。
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バスジャック模擬訓練を実施

平成12年5月3日午後1時35分ころ、福岡県太宰府市の九州自動車道・大宰府インターチェンジ(I.C)付近で、佐賀発福岡・天神行きの高速バスが、刃物を持った若い男に乗っ取られた。当時の読売新聞は次のように報じた。「バスは、中国、山陽自動車道などを約300キロ走行し、広島県東広島市の同自動車道・奥屋パーキングエリア(PA)で約3時間45分間停車したが、再び走り出し、約20キロ先の小谷サービスエリア(SA)で停車した。この間、男は短銃などを要求。奥屋PAで女性3人が解放されるなど、計12人がバスを降ろされたが、女性1人が首などを刺され死亡、5人が重軽傷を負った。バスには4日午前1時20分現在、6歳の女児を含む女性10人前後が人質としてなお残されており、広島県警が説得を続けている。国内のバスジャック事件で乗客が死亡したのは初めて」、広島県警は4日午前5時5分、東広島市の山陽自動車道小谷SAで捜査員を突入させ、乗客と運転手を救出し犯人の無職少年(17才)を逮捕した。この事件は、バス業界に大きな衝撃を与えた。

九州バス協会は、バスジャック事件の連鎖発生を警戒し、6月27日に九州管内のバス事業者による模擬訓練を自主的に行った。

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日本バス協会では、事件発生後ただちにバスジャック対策検討会議を設置した。7月17日、延べ16回にわたる検討審議を経てバスジャック統一対応マニュアルを策定し、全国のバス協会にバスジャック対応訓練の実施を求めた。

9月28日、石川県バス協会がこれに呼応し模擬訓練を実施したのに続き、9月30日に東京バス協会及び関東地区県バス協会の共催で訓練実施が行われた。道バス協会でもこの訓練実施の方法などについて検討をしていたが、平成13年1月13日、京都で20才の男がバスジャックし50分後に逮捕される事件が発生した。また、2月17日には千葉県の観光バスが東京都内でバスジャックされ約3キロにわたって暴走、タクシー・オートバイなど計10台に次々と衝突し逮捕されるという事件も発生した。

道バス協会は、このようなバスジャックの連続発生をうけて、2月27日に主催は道バス協会、実施主体を北海道中央バス(株)として、中央バス自動車学校のコースを使って模擬訓練を行った。この訓練は、北海道運輸局・北海道・北海道警察本部・札幌方面北警察署・札幌市消防局北消防署の協力を得て、模擬対策本部と模擬バスジャック訓練現場とがリアルタイムで対応する訓練であった。対策本部の緊急設置、警察への通報、警察官の犯人説得、負傷者の救出と救急車の対応、消防車の待機など、特に車内で発生したケガ人の救出は緊迫した実戦さながらの訓練で、多数の視察者をはじめ報道関係者の関心を集めた。

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覚せい剤・酒酔い運転で批判

平成14年3月23日、道内で覚せい剤取締法違反(使用)の疑いでバス運転者が逮捕されるという事件が発生した。

内偵捜査をしていた警察署が行った尿検査で覚せい剤反応が出たもので、24日には同僚の整備士も逮捕された。

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道バス協会は、この事態を深刻に受け止め、緊急の社長会を開催することとした。4月10日に開催された覚せい剤等薬物乱用緊急社長会には、運行管理者及び日々運行管理業務の指導的立場にある責任者も出席し、北海道運輸局・北海道・北海道警察本部の厳しい指導をうけた。

覚せい剤使用の有無確認は、プライバシーとの関連もあり実行ある対策を如何にとりうるかが大きな問題ではあったが、公共輸送機関として多くの人命を預かるバスへの信頼と深刻化している薬物事件が多方面にわたって与える社会的な影響を考慮すると、再発防止に向けて運転者等に対し尿中薬物検査の実施も求めざるを得なかった。

道バス協会は、この観点に立ち緊急社長会の承認を得て、次の7項目を決定し、各社で実施を検討することになった。

[覚せい剤等薬物乱用防止対策]

  1. 刑法並びに道路交通法の改正により、正常な運転が困難な状況での運転行為を行った者への罰則が強化された。これに伴い、事業者に対しても厳しい行政処分が課せられることになったので、各社は覚せい剤等薬物使用禁止を明確にした就業規則・服務規程及び運行管理規程等の社内規程を整備するとともに、尿中薬物検査等の検討を含め実効ある対策を進める。
  2. 始業・終業点呼時において、乗務員の心身状態の把握を確実に行うとともに、点呼記録に「覚せい剤等薬物を使用しないこと」等を確実に明記し、特に覚せい剤等薬物使用の有無について確認する。
  3. 各社に「覚せい剤等薬物乱用防止対策委員会」(仮称)を設置し、定期的に会合を開き防止対策を点検し、「覚せい剤等薬物に関心をもたない、近づかない、近づけない」明るい職場環境づくりに努める。また、覚せい剤等薬物乱用の誘因が職場環境等に起因するとの指摘がされることがないよう対策委員会を通じて徹底する。
  4. 乗務員の日常生活及び健康状態の把握と家族の協力を得た生活環境づくりに努め、常に良好な状態で勤務できるよう適切な指導を行う。
  5. 関係指導機関・団体との連携を強め、専門家による管理者・乗務員への指導並びに情報交換等を行い、防止活動を積極的に推進する。
  6. 運行管理者に対する研修会への積極的な参加を通じて、覚せい剤等薬物乱用問題についての認識を深め、乗務員に対する啓発活動を推進する。
  7. バス事業は、公共交通機関として輸送の安全を確保することが最大の課題であることを再認識するとともに、経営者・中間管理者・乗務員が一丸となり、業界挙げて覚せい剤等薬物乱用の防止に最善の努力をする。

平成14年7月7日、JR名古屋駅発東京新宿駅新南口行きの長距離高速バスの運転者が酒気帯び運転容疑で検挙された。

翌日の新聞は一斉に非難の報道を展開した。だが、酒気帯び運転はこれに止まらなかった。8月28日、神戸の路線バスでも酒気帯び運転により80才の女性をはね死亡させる事故が発生した。

国土交通省自動車交通局長から飲酒運転防止対策の再点検と再発防止対策について通達が直ちに発せられた。その内容は、日本バス協会において飲酒運転防止対策会議を設置し具体的なマニュアル等の策定をすることと、都道府県バス協会において関係事業者の参集を求め、各地方運輸局等の協力を得て再発防止策について改めて周知徹底を図ることを強く指導する異例のものであった。

菊池正平会長(6月21日、道バス協会会長に就任)は、保安・環境対策委員会の小森宏明委員長と協議をし、9月17日に緊急事故防止会議を開催することとした。この会議での注目点は運転者に対するアルコール検知器の導入であった。様々な論議を経て、まとめられた飲酒運転防止緊急対策は次のとおりとなった。この後、日本バス協会は総合交通安全対策事業の一環として、全国の各社にアルコール検知器1台を配り、この対策を支援した。

[飲酒運転防止緊急対策]

  1. 刑法並びに道路交通法の改正により、飲酒運転行為を行った者への罰則が強化された。これに伴い事業者に対しても厳しい行政処分が課せられることとなった。したがって各事業者は、非番・休日における節度ある飲酒を含めた就業規則・服務規程及び運行管理者規程等を整備するとともに、アルコール感知器等の導入を含め実効ある対策を進める。
  2. 始業・終業点呼時において、乗務員の言動・心身状態の把握に努め、アルコールの身体保有の有無について確認し、安全な運転ができない恐れがあると判断された場合には、速やかに乗務を変更するとともに、本人から事情聴取するなど原因を究明する。また、アルコール依存症の疑いのある乗務員は、車両運転以外の業務に配置転換する等の措置を講ずる。
  3. 貸切バスの宿泊勤務地における乗務員の飲酒の制限(例えば、夕食前の飲酒、午後8時以降は飲酒自粛等)について乗務員への徹底を図る。
  4. 公共交通機関に携わる者が、アルコールを身体に保有したまま乗務することは絶対にあってはならないことであり、「飲酒運転はしない、させない」職場環境づくりに努める。
  5. 乗務員の日常生活及び健康状態の把握と家族の協力を得た生活環境づくりに努め、常に良好な状態で乗務できるよう適切な指導を行う。
  6. バス事業は、公共交通機関として輸送の安全を確保することが最大の使命であることを再認識するとともに、経営者・中間管理者・乗務員が一丸となって飲酒運転の防止に最善の努力をする。

災害と事故、天災と人災。避け得るもの、避け得ないもの。それは多種多様であろう。だが、多数の人命を預かるバス事業は、なんとしても危機を避け被害を最小限に止めなければならない。危機管理が政治・経済・産業など全てに求められている現代、バス事業は、いま信頼の回復を目指して新たな挑戦を始めた。

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